にいちゃんっ指、はいってるぞっ、怒っ!【変な奴シリーズ】
にいちゃんっ指、はいってるぞっ、怒っ!
仕事に没頭する職人
とりあえずブックマークすると後でゆっくり読めまーす。
コメント無しでも嬉しいな。
ある日の花屋
切株おやじがアルバイトしてた夜のアクセサリー屋の左隣は花屋だった。繁華街のオネーチャンへのプレゼントにと鼻の下が長めの赤顔おっさんで繁盛していた。
俺らの店舗の真下には川が流れていた。戦後のドサクサで川の上に建てられたバラックが何代にも渡り改装を重ね、いつの間にか「店舗」に見える不思議な一画、街の景色に溶け込んでいた。
花屋のオヤジ
人通りも無い平日の夜。俺は自分のアクセサリー屋を横目で見張りながら花屋で油を売っていた。
チョキン、チョキン・・・。
リズミカルなハサミの音が続く。
「なあ、この花屋の権利金はさー、300万円だったんだぞー。」
「へー、狭いのに高いなー。」
店は、3畳チョイくらいしかない。そのうち、ガラス張りのドでかい花用冷蔵室が店の半分を占めている。
チョキン、チョキン・・・。
リズミカルなハサミの音が続く。
「この花の冷蔵庫が300万円したんだそうだ。それを俺が引き継いだのさ。」
「そんな高けーの!びっくりだなー。」
チョキン、チョキン・・・。
リズミカルなハサミの音が続く。
花屋は、切った花の切れ端をコンクリートの床に開いた丸い穴に落としている。
不思議そうに見てると、花屋は言った。
「ここは
そして、花職人は見事な花束を組み上げた。
イイノカー?
出前
その夜の花屋のバンメシはラーメンだった。
その界隈では鉄板人気の、半径100メートルに3店舗もあるラーメン屋。
鶏ガラあっさり豚骨のコクがあるのにくどくないスープ。毎日、三食でもいけそうなとっても美味いラーメンだ。スープを残す客は誰もいない。
「お待たせしましたー。」出前職人のいつもにいちゃんは今夜も威勢がいい。
激怒
静かな、でも激怒に近かった。
「にいちゃんっ指、はいってるぞっ!」
ラーメンドンブリを右手で持つ出前の兄ちゃんの親指は、がっつりスープに浸かっていた。
「あいつ、いつもなんだよなー。」
いつもなんかーい!? で、あんたも懲りずにいつも頼むのねー。
おわりに
職人とは、道を極めようと挑戦している人ですね。
目を見張る鮮やかな技と他の追随を許さない唯一無二の完成度の高さで、すでに道を極めてるだろうと思われてるその道の大御所でも、皆さんまだ挑戦中なのです。
出前職人の彼はきっと、スープを愛してやまない男。一滴もこぼさないように心を込めて運んでいたことは間違いありません。
用語の解説
暗渠 | 地下に埋設したり、ふたをかけたりして見えない水路 |
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