海の記憶。エアーが無い! コミック「海猿」書評
(約2800文字)
海の記憶
海は素晴らしくも恐怖
九州のダイビングスポットでのお話です。
下線の専門用語には文末に解説があります。
海に潜るぞー
かれこれ10年ほど前のこと、たぶん大潮に近い夏の日の出来事でした。
googleアースからの現場写真
向かいの島との狭い海峡に突出した岩石でできた小規模の岬は、ずっと昔から波に洗われています。ミニ灯台のような形をした建造物が岬の先端で見守る中、青空と爽風が俺と今日のバディーであるガイドのMr.Celebration(日本人のおっさん。以下、セレブン)を歓迎してくれました。
装備の重さと足元のゴロタに閉口しながらも、岬の東側からエントリーしました。ウェットスーツに侵入するひんやりとした海水が陸での暑さと不快感を吹っ飛ばしてくれます。体にのしかかる重さは霧散し、宙に浮く無重力の心地よさ。ちゃぽんちゃぽんと空中と水中を上下に二分割して同時に見せてくれるマスク。来て良かったー。
BCのエアーを抜き、唾を飲み込みながら潜航します。シュコーシュコー、咥えたレギュの音が続きます。深さ3メートル程の海底には幻想的な光の網が砂地に敷き詰められ、見上げると夏の太陽が海面に眩く輝いています。
お魚さん
「真鯛の赤ちゃん」、ガイドのセレブンがクエストに書いて指さした先には、真鯛の赤ちゃんが波に揺られています。その5センチもない体は、桜色でお目目くりくり。なんてかわいい。
魚影が濃いこのダイビングスポットは、県外からもダイビングツアーで訪れる皆さんが多い人気スポットです。
水深15メートル位でしょうか、10センチ位のオキゴンベが人懐っこく寄ってきます。この子はいつも同じ場所に住み着いてて、どうやら遠征してくる心無いダイビングショップによって餌付けされてるようです。添加物いっぱいの人間の食べ物を野生のお魚に餌付けしたらダメじゃん。(# ゚Д゚)
ヒラメを追いかけ、ミノカサゴを眺め、コロダイをやり過ごし、まったりと時間が過ぎます。
ドリフト
さて、岬の先端へ近づくにつれて海流を感じるようになりました。岬と島の間の海峡は、満潮と干潮の時には潮の流れが生まれます。干潮時は東から西への海流に乗って、泳がなくても流されて前に進める時間です。このドリフトダイビングはラクチンで大好きです。ビーチダイビングでドリフトが楽しめるスポットはそう無いのではないでしょうか。海底の景色を堪能しながら、ちょうどエントリーポイントと反対側のエキジットポイントの浜へ向かいます。岬をぐるっと回って車を止めてる駐車場の裏側のビーチにでるという楽ちんなダイビングスポットです。
海からあがるぞー
減圧
ゆっくりと浮上しながら、そのまま減圧を兼ねて海面下5メートルをキープし、セレブンの後についてエキジットポイントへ向かいます。ふと、残圧計を何気なく見ると針が残圧ゼロに近づいているではありませんか。ヾ(;゜ロ゜)ノ
大丈夫、大丈夫と言い聞かせながらそのまま潜航し、ダイコンを見るとすでに潜ってから50分が経過しています。セレブンは相変わらずゆっくりとしたペースで進み、その後をついていく俺。
エアーが無い
暫くして、左手に握る残圧計はついに残圧ゼロを示します。タンクの中の空気が無なくなったか!
ふくらはぎに装備してあったダイバーナイフを抜き、ナイフの柄で背中のタンクをカンカンカンと叩いて「こっち向けっ!」とセレブンに合図を送ります。
振り向いたセレブンに向かって、俺は首の前に手刀を構え、首を左右にちょん切るハンドシグナルを送りました。エアーが無いの合図です。
うんうんと頷いたセレブンは何も無かったようにまた泳ぎ始めました。
てめー、知らんふりかーっ!
果たして、エアーは持つんだろうか?えーい、こうなったら、息を止めながら空気を節約して行かなきゃ。ちきしょー。
エキジット
エキジットポイントに近づいたのでBCに吸気して海面に上り、レギュをスノーケルへ咥え替えます。空気はもったー。助かったー。
コミック「海猿」
コミック「海猿」は小学館の週刊ヤングサンデーに連載され、実写ドラマ化もされました。海上保安官の潜水士の物語ですが、潜水士の名称は「海猿」ではありません。笑 躍動感あふれる現場と人間模様が、読む人を引き込む作品です。
なお、現実的には、潜水病の原因にもなるので海中での激しい動きはオススメできません。
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おわりに
「泳ぎながら減圧は済んでんだから、エアーが無くなったら浮上すればいいじゃん。」と、セレブンからの冷ややかな言葉。
そっかー、水深5メートルに5分もいたんだもんね。上がれば良かったのね。なんだー、簡単、バカみたい。
残圧ゼロでも危険は無いと判断した冷静なセレブン。焦った俺がバカだったが、ま、頼りになるガイドさんだったのね。。
専門用語の解説
バディー | 相棒。二人一組で潜んないと、もしもの時に生死にかかわる。 |
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ゴロタ | 磯によくあるゴロゴロした小さくはない丸い石。歩きにくい。 |
エントリー | 入水。ボートからは飛び込むが、ビーチでは歩いて入る。 |
マスク | 水中メガネ。耳抜きのために鼻がつまめる構造。 |
レギュ | レギュレーターの略。水圧に応じて吸い込む空気を適正圧にしてくれるダイバーが口にくわえてるアレ。 |
BC | 浮力調整装置。ジャケット様式で、着て潜る。切株おやじのBCは国産メーカーTUSAの海猿が使ってたヤツ。 |
唾を飲み込みながら | 唾を飲み込むと、耳管から喉に空気が移動して内耳と外耳の圧力を同じにできる。鼓膜を守るためのいわゆる「耳抜き」。あくびでも代用可。航空機内でも有効。 |
クエスト | 水中で筆談できるホワイトボードみたいなもの。砂鉄文字を磁性ペンで書き、何度でも消してまた書ける優れもの。耳が遠いお年寄りのそばにも置きたい。 |
ドリフト | 海流に身を任せて楽しむダイビング。ボートダイビングでは浮上予定地点にボートが先回りして待つ。 |
エキジット | 浮上。海から上がること。 |
減圧 | ダイビング中に血液に溶け込んだ余分な窒素を、呼吸する肺を通して排出すること。減圧を間違うと、振ったコーラみたいに窒素が血中でシュワシュワし、潜水病となる。通常の遊びダイビングで海面下5メートルでの3分以上の減圧停止が必要。 |
ダイコン | ダイビングコンピュータの略。普通、腕時計みたいな形。潜水中の深度経過など様々なログを自動で記録してくれるおりこうさん。 |
残圧計 | タンク内の空気の残り圧力を教えてくれる計器。 |
タンク | 空気を押し込んで背負う重い缶。ボンベとは言わずタンクという。中身が空気なので外殻の色はグレー。普通は空気を入れるが、酸素濃度を高めた特殊なものもある。 |
夏はアイス。